大判例

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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3944号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は昭和三一年一〇月二〇日被告から本件土地を普通建物所有の目的で賃料坪当り一ケ月一五円月末払、期間三〇年の約束で借受け契約金として八五万円を支払つた。しかるに被告は昭和三五年三月二八日訴外北岡辰男に対し本件土地を借地権の負担のない土地として売り渡し、同日所有権移転登記を経た、原告は右賃借権を右北岡に対抗できないため本件土地を使用収益しえず、したがつて被告の賃貸人としての債務不履行のため原告の賃借権は同日消滅に帰した。そこで原告は被告にたいし履行不能による損害賠償を求める、と主張した。

被告は訴外加山大次郎から一二三万円を借受け、本件土地に抵当権をつけることとなり、その登記手続を栗原初太郎に依頼したところ同人は被告不知の間に北岡に対し本件土地につき売買名義で所有権移転の登記をして了つたので被告が本件土地を譲渡した事実はない、更に原告が本件土地を更地のまま放置して第三者に対する対抗要件を備えることを怠つた過失も本件履行不能の一因となつてをり、かりに被告に損害賠償の義務があるとしても原告のみぎ過失は損害額の算定につき斟酌さるべきであると抗争した。

判決は本件履行不能は被告の責に帰すべきものであり、原告が対抗要件を具備しなかつたことについては過失責任がないとして、つぎのとおり説明している。曰く。

「ところで、賃貸借継続中に賃貸人が目的物を第三者に譲渡した場合、賃借人が右賃借権をもつて第三者に対抗し得ないときは、賃貸人の賃借人に対する土地引渡債務は賃貸人の責に帰すべき事由により履行不能になつたものと解すべきところ、これを本件についてみるに、……被告は、訴外栗原初太郎及び弟隆之助を代理人として、昭和三四年八月二九日訴外加山大次郎より本件土地を担保に金一二三万円を弁済期同年一〇月二八日の約で借受け、抵当権設定契約に関する公正証書を作成し、同日、加山のため本件土地につき東京都知事の許可を停止条件として売買予約による所有権移転登記を経ていたが、被告は右債務を履行しなかつたので、加山は、右貸金債務の代物弁済として本件土地の所有権を取得し、昭和三五年三月二八日前記仮登記を抹消し、本件土地の地目を宅地に変更のうえ、同日訴外北岡辰男に対して右土地を売却し、中間の取得登記を省略して被告より北岡名義に所有権移転登記を完了したものであることが認められ、証人喜多哲郎の証言及び被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに措信できない。

したがつて、被告の賃貸人としての債務は、遅くとも被告より右北岡に対して所有権移転登記がなされたときに履行不能となると共に原告の賃借権も消滅に帰したものと認められるから、被告は右履行不能により原告に生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

二、被告は、右履行不能が被告の責に帰すべからざる事由によつて生じたものである旨主張し、被告が前記北岡等を相手どつて当庁に本件土地の所有権移転登記無効確認の訴を捉起し、目下係争中であることは当事者間に争がないけれども、被告本人尋問の結果中、右主張に符合するような供述部分は、前掲証拠に照らしてにわかに指信できないし、他に右主張事実を認めるべき的確な証拠も存しないのみならず、被告が本件土地の所有権を前記北岡等より回復して原告に使用収益させることができない以上、結果において被告の債務不履行の責任は免れ得ない。

また、原告が本件賃借権について第三者に対する対抗要件を具備していなかつたことは争がないけれども、右事実をもつて原告に過失があつたものとは到底いえないし、これをもつて被告の債務不履行による賠償額斟酌の原因ともなし得ない。したがつて、この点に関する被告の主張は採用できない。」

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